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[店長日記]02|7/15 Mon.| あいにくのお天気で。
毎朝、店の扉を開けるたびに、ささやかな一日のはじまりに少しだけ心がおどる。格子窓しかない暗い土蔵に差し込む光に目をやり、珈琲を淹れる。今日があの頃になるときに、思い出せるように。

あいにくのお天気で。
2024/7/15 Mon. —
こないだ誕生日を迎えた。夏生まれだから青々とカラッとした快晴が好きだ。
7月生まれは夏生まれではあるだろうが、日本には梅雨があるから夏生まれだから「晴れが好き」は無理がある。
生まれた日が晴れていたかどうか聞いてみたが覚えてないと言われた。いずれにしても快晴が好きだ。
昔から雨や曇天が苦手だった。目が覚めた瞬間からあいにくの天気はわかる。 いつもよりも部屋の中が明らかに薄暗く、じめっとした雰囲気ではじまる。
カーテンを開いた時の部屋の暗さとの対比があって朝が来たと感じるのに、起きた気にならず憂鬱な気分になる。
あいにく(生憎)のお天気という言葉があるように、雨はどこか好めない雰囲気があった。

雨好きの人がいた。
その人に理由を聞いたら「水たまりとか飛沫とかが好き」だと。
水たまりなんて靴に染み込んでくる厄介さがあるし、飛沫だっていちいち服や体が濡れて気分が悪い。 飛沫を浴びるくらいならいっそバケツを返したような土砂降りで、水浸しになって風呂に入ってしまうくらいの方がましだと思った。
結局20年近く雨を毛嫌いしてきたが、ついこないだ、好きだ、と思ったことがあった。
日曜日の午前中。晴れていれば出かけるはずのあいにくのお天気。どうしても出かけたいわけではなかったので、パンとコーヒーと、本を片手に暇を潰すように過ごした。
リューズガラスの花器に一輪の霞草をさして。電気もつけず、ただゆっくり食事をして、ゆらゆらと揺れる花瓶の影を見て。
雨によって屈折する光や影のゆらぎが良い。雨の音が良い。窓につく飛沫が良い。淡い光の中で浸ることで見えた気がした。

今までを思うと、あいにくの気分を避けるため、飛沫を避け、音を避け、光をつけて薄暗さを避けていた。 ただ浸るということをしたのははじめてだったかもしれない。あっただろうが先入観で見えなかった、無になってみるとこんなに良かったものかと思った。
日本には昔から雨を慈しむ言葉が多くある。梅雨もそれ。それらを見てみるとその美しさや恵みを祝うように表現しているものばかり目につく。
ではあいにくとは何なのかと思うと。思い通りにならなかった経験と先入観に他ならない。
花器と本と珈琲で、あいにくのお天気は折良いものになりそうだ。
