2024.08.02
店長 和田
毎朝、店の扉を開けるたびに、ささやかな一日のはじまりに少しだけ心がおどる。格子窓しかない暗い土蔵に差し込む光に目をやり、珈琲を淹れる。今日があの頃になるときに、思い出せるように。
行ったことないプラハ。
2024/8/2 Fri —
夜8時、まだ小さい子どもたちが寝静まる頃、取り出すのはこのグラス。
大学時代、大のビール好きの先輩は、ビールを基準に海外旅行をしていた。
チェコ、プラハに行ったりドイツのビアホールを巡ったり、ほかにもいろいろ行っていたと思う。
旅行の後の話題は大抵ビールのことで、このビアホールの雰囲気があーで、香りはこーで、この種類の醸造はあーだこーだといったこと。
居酒屋でビールを片手に土産話を聞きながら、小さい頃読んだ旅行記を思い出しながら、会話に花を咲かせた。
土産といえば、お土産にもらったビアグラスは、今のによく似ている。何かわからないロゴ入りの厚くてずんぐりしたもの。それを片手に行ったことないプラハのビールの香りを感じていた。
量を飲まなくてもグラスや器をこだわると、なんとも特別な気分になるから不思議だ。
正直言うと、発酵飲料でシュワシュワな飲み物を飲むのに適しているかは微妙なところ。口が広くて炭酸が抜けやすいだろうから。
それでもなぜ使うかというと、このグラスが持ついかにもな海外感だ。
ロング缶が一本ちょうど。注ぎ切って重みを感じながら飲めば、行ったことないチェコやらドイツに一人旅。
プラハの街並みをテレビに映し、スマホで民族音楽、つまみをナクラーダニーなんちゃらでそろえれば、寝る前の短い旅にちょうどいい。
家でそんなことをしていると、大抵「何をしてるの」と言わんばかりの視線を感じる。
するとそれすら良いエッセンスに。自分はまるで遠い国から来て右往左往する日本人の変なやつの気分。
ひとり旅であてもなく歩けば、きっとこんな感じなんだろうと思いながらそれに浸る。
こんなよくわからないことでも、人生は楽しくなるからおもしろい。
ビアグラスを片手に今日も1人、行ったことないプラハの風を感じながら楽しむ、そんな夜。